㈱アトリエ・ヌック建築事務所
新井 聡

通りから奥まった位置に玄関のある住まいを設計することがあります。
そういったお宅では、道路から玄関ポーチまで、アプローチが長く延びるつくりとなります。

隣家の迫る密集地の、特に間口の狭い敷地は、日陰が多く風通しも悪くなりがちです。
敷地の奥の部分は周囲の建物の影響を強く受けるためそれが顕著なのに対し、道路に近い部分は遮るものが少ないので、採光や通風が得られやすく、奥まった部分より居住性に勝ります。

このような環境での住宅計画では、居間など家族が多くの時間を過ごすスペースを、道路に近い部分に配置するのが得策です。
間口と日当りの制約で、道路寄りに配するスペースが限られるなら、水廻りや収納といったサブの部屋は奥の方に配置することになります。
玄関も同様に捉え、「道からすぐに玄関」の先入観を捨ててプランニングした方が、暮らしよい住まいになることがあるのです。

アプローチが長い住居に、優れた建築が多い?!

一方で、玄関までのアプローチが長い住居に、優れた建築が多いということが言われます。
建築家の吉村順三さん宅や、志賀直哉さん自邸、京都の有名な料亭などがそうです。
行き着くまでのアプローチが長いのは、神社や寺院などの建物がそうであるように、その方が風情があり高級という感覚が、日本人の意識の中にあるのです。並ぶ家々を眺めて「感じがいいなあ」と思える住まいは、アプローチの長さが一役買っていることが少なくありません。

事例1

この住まいの敷地は細長い台形で、日当たりのよい南西の道路に面するのはそれほどの長さがありません。
通りからの通風の良さと、南東に確保した庭からの採光を十分に取り入れ、明るく暖かい居間をつくるました。
そのため玄関は敷地の中ほどより奥に配置しています。南東の庭を通り玄関まで至るつくりで、風情のあるアプローチとなっています。
長さを利用しアプローチをスロープ状に設けることができ、高齢になっても安全に出入りできます。

 

事例2

こちらの住まいの敷地は東西に長い長方形で、短辺が東道路に面しています。南隣家が迫って建つため、日当たりを確保するのに、できるだけ北に後退した幅が狭めの建物形にする必要がありました。
玄関を敷地の一番奥に配することで、最高条件のよいエリアを出入口や廊下に割くことなく、居間とお年寄りの部屋に充てることができ、暮らしやすい間取りとなりました。
玄関までのアプローチは南隣地に沿った日当たりの乏しい部分を通ります。この部分の隣地との目隠しフェンスは、プライバシーを確保しつつ通風を妨げない杉板の横張りとしました。
植物は育ちにくい場所ですが、居間から眺めても潤いを感じるアプローチとなりました。