だいすきだから、究める。

木の家コラム

「健康な住まい」に思いをはせる

 ベネチアは、中央の大きく蛇行する大運河と路地のような無数の運河がおりなす「水の都」です。ベネチアの特徴をなす運河ですが、運河を管理する行政官は特別な職種で、就任式が18世紀までつづくベネチア共和国の元首によって取り行われました。
その際には「この者の功績を讃えよ、それに相応しい報酬を与えよ、しかし、この地位にふさわしくないとなったら絞首刑に処せ。」と宣言されました。
運河の管理がベネチアの生命線ともいえる重要な仕事であったためです。一見、計画がないように見える運河のかたちは一貫した原理によってつくられていたのです。
それは、恐ろしい伝染病を防ぐため、川の流れと潮の満ち引きを利用して、自然をとりこみながら水が滞留して腐らないよう、常に水の流れをつくりだすよう計画され、改善されてきました。交通手段として使うというのは二次的な目的で、「健康」な街をつくるというのが、ベネチアの都市づくりの原理で、その結果として現在のようなヒューマンスケールの魅力ある街ができたのです。

耐震性能を住まい手が選ぶ時代に!

 熊本から東京に出てきた人が、生まれて初めて地震にあって驚いたと話していました。熊本はそれほど地震のないところだったわけですが、これからは、全国どこでも地震が起こると考える必要があるでしょう。建築基準法は、1986 年新耐震基準が導入、木造住宅については阪神淡路大震災を経て 2000 年 6 月にさらに強化されました。
今回の熊本地震で、専門家の関心は 2000 年 6 月の基準を改正し強化する必要があるかどうか、ということでしたが、国土交通省では検討委員会の調査結果報告をふまえ、「建築基準法改正の必要はない」との結論をつい最近出しました。

お米と木材、乾燥の大切さは同じ

収穫したてのお米は約 20% の水分を含んでいます。水分が多いとカビなどの原因になるため、乾燥させて約 15%に落とすことが必要ですが、現在は火力を使った機械乾燥が普通です。
かっては稲架(はさ)と呼ばれる横木につるし天日で乾かしており、味がよくなると言われていることから現在でも天日乾燥にこだわる生産者がいます。実際、「炊飯品質では、天日干しは熱風乾燥より食味スコア等の5 項目において品質指標が向上する傾向を示した」と学会報告もあります。

怖い内部結露を防ぐには

 水蒸気は、私たちが息をしている空気の中にごく普通に含まれていて、水とは比べ物にならないくらい細かいため、建材の中にも容易に浸透していきます。
建材のなかに浸透していきながら一定の温度(露点温度といいます)以下に触れると水に変化 ( つまり結露 ) します。ガラスのように水蒸気を通さない建材では表面に結露します。
外壁近くに合板のような水蒸気を通しにくい材料を張っていると、建物内部から外に向かって流れる水蒸気は合板でせきとめられ、露点温度以下に達すると結露することになります。これが内部結露で、建物の腐朽を早める恐ろしい現象です。
実は、断熱性・気密性を高めた冬暖かい家にすると結露の危険性が高まってします。
したがって、断熱性・気密性を高めた場合には、あわせて結露対策をしっかりやっておくことが必要となります。現在、国土交通省では、水蒸気が壁体内に入らないよう防湿気密シートをはるよう推奨し、その講習を全国的に進めています。
木の家だいすきの会では、木の家の気持ちよさの源泉は吸放湿性にあると考え、それを阻害しないよう、何とか防湿気密シートを張らない防露工法の開発を進めてきました。 ここで紹介する木の家は、断熱材は自然系のセルロースファイバーを採用した上、より水蒸気を通しやすい建材を外側に採用し、さらに通気層を確保することで、内部結露を防止しています。
温熱環境設計の一環として結露チェックも実施しましたが、設計通り結露が発生しないかどうか確認するため、壁の中に温湿度センサーを埋め込み、工学院大学建築学部中島研究室に依頼して 1 年間計測していることろです。今回、計測データの中間報告がまとまってきましたが、内部結露の発生は見られず、防露設計の有効性が確認されました。

「合板を使わない」というこだわり

 2013 年 3 月 11 日の東日本を襲った巨大地震と大津波によって合板工場が大打撃を受け、日本全国の全ての住宅建設が影響を受けることになりました。
「合板を使わない住宅は皆無である」と言ってよいほど、合板は日本の住宅建設に必要不可欠なものになっています。こうしたなか、木の家だいすきの会では、かねがね “合板を使わない” 工法を探ってきました。その理由はいくつかあります。数年前に挑戦した時は、お子さんのアトピーなどを気にする建て主向けに、「化学物質である接着剤を排除して自然素材のみで家をつくる」という目的が主たるものでした。
また、長寿命の住宅が社会的な課題になるなかで、70 度以上にも達する屋根の厳しい温熱環境や床下の湿気に合板の接着剤が果たして長期間耐えうるものなのだろうか、という懸念も工務店の声として上がっていました。 

温熱環境と健康な暮らし

 日本の浴室での死亡事故者数は、欧米先進国の 10 倍以上で世界的に見ても群を抜いて大きいことをご存じでしょうか。日本ではヒートショックで亡くなる人は、実に交通事故死亡者数約 4 千人の 3.5 倍に当たる年間 1 万 4 千人に達します。
交通事故の死亡者数は 1970 年に 1 万 7 千人に達し、大きな社会問題となった結果、全国的な交通事故撲滅運動が展開されて 2013 年には約 4 千人にまで減少しました。ヒートショックによる死亡が国民的課題になるのも時間の問題と言えるでしょう。
ヒートショックの理由としは、「浴槽につかることを好む」うえに「浴室の室温が低いこと」などが大きな理由と言われており、住宅の温熱環境が主要な原因の一つとなっています。

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