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木の家コラム

“グリーンウッドワーク” の魅力

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伐採したばかりの立木は水分を多く含んでいます。杉は水を好む樹種なので、伐採したばかりの年輪に触れるとしっとりと手が濡れます。伐採直後から乾きはじめ、乾くことで収縮します。正確に言うと、木の含水率が大気中の含水率(関東地方では約15%)になるまで乾燥が進むと収縮は止まります。
家づくりでは木材を乾燥させて使うことが大切ですが、乾燥のさせ方で木材の性状が変わってきます。木本来の香りや色合いなどを保全するためには、時間をかけて天然乾燥することがベストですが、管理が難しくコストや時間もかかるため、人工乾燥が一般化しています。
木の家だいすきの会で数年前から実用化している“彩の香り杉”も天然乾燥に近い中低温の人工乾燥方式で樹液成分の漏出を抑え、杉本来の香りや色つやを保全した杉材で、これを使って家づくりをお薦めしています。

通常の木の使い方と異なるグリーンウッドワーク

広葉樹を使用することの多い家具づくりも同様で、木は乾燥したものを使うのが常識です。ところが、グリーンウッドワークでは、その常識を横に置いて、伐採されたばかりの生木(グリーンウッド)を使用して生活用具を作ります。

グリーンウッドワークのスタートは、森に入って立木を伐採するところから始まります。その木が太陽のよくあたる斜面で育ったのか、生存競争が厳しかったのか、どのような木と仲間をつくってきたのか、そのようなことを感じながら、次世代の萌芽更新を促すようなことも考えながら伐採してきます。

森に入って、かつらの木を伐採

 

伐採したばかりの木は、水分を含んでいるため刃物が入りやすく工作しやすいですが、これから収縮が始まることを考えて、材料ブロックを切り出します。木は年輪に対してどのように使うかで、模様の出方が異なるため、それを考えるのも楽しいひと時です。

材料ブロックができると、次は粗削りとなります。例えばスプーンづくりでは、スプーンの外形の平面図と立面図を材料ブロックに写し取り、それを手がかりにして手斧で粗削りをします。木材は繊維方向に割れが入りやすいため、繊維を事前に鋸切りで断ち切ってから手斧で掘り進めることもあります。

手斧の粗削りのあとはナイフを使った削りに入りますが、ナイフワークにも、安全性と効率性を考慮したグリーンウッドワーク独特の13種類の削り方が開発されています。粗削りと仕上げ削りのナイフワークメソッドがありますが、全ての基本は安全にナイフを使用するという観点でできています。

全9工程のうち、左から7工程目までは手斧を使った粗削り、8・9番目はナイフワーク

子どものときに感じた感覚

グリーンウッドワークを知ったのは、グリーンウッドワークを日本で広めた久津輪雅氏(岐阜県森林文化アカデミー教授)にときがわ町に来てもらって講習会を開催した2021年12月でした。いつか、自分自身で取り組んでみたいと考えていましたが、今年に入って岐阜県立森林文化アカデミーでの指導者研修に参加する機会を頂きました。研修は時間の経つのも忘れるほどで、森や木に対して書物からの知識ではなく身体から実感として感じ取ることができました。そして、無心でものを作っているこの感覚は子どものときに感じた感覚と同じものではないか、と気づかされたこと、貴重な“癒し”の時間ではないかと感じることができたことが、何よりも大きな収穫でした。

久津輪先生(右)、筆者(中央)
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