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木の家コラム

誰にも気兼ねなく楽に暮らせる高齢者の住まい あるケース

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将来の体の衰えを見据えての住まいや、老親のための住宅改修など、設計でお手伝いする機会は少なくありませんでした。
高齢者にとって移動を安全にすることと介護が受けやすいこと、関係者にとってはお世話がしやすいことが、新築でもリフォームでも考え方の軸になります。1階だけで生活ができること、段差を無くすことを基本にすることがしばしばなのですが…。

86歳と82歳のある高齢夫婦のケース

ここで紹介するのは、86歳と82歳の高齢夫婦、筆者の父母の住まいについてです。
現在、二人が暮らす築22年30坪弱の住宅は、元々次女夫妻が建てた家です。次女夫妻が家を建てて10年が経過した頃、3人の子供たちが大きくなり何かと手狭であるとの話が持ち上がり、父母が住む向かいの45坪住宅と入れ替わり引越しを行っていました。

次女夫妻が建てた家30坪住宅は、スキップフロアのつくりで、道路レベルの駐車場階、半階上がってメインフロア、また半階上がって寝室・収納・トイレ、さらに半階上がって子供部屋フロアの構成です。家の内外に4つの階段があり、小上がりまであるという、言ってみればアップダウンの多い家です。

父母がここに住み始めた年齢は74歳と70歳。リタイヤしてまだ数年で体の衰えはみられず、二人それぞれの趣味や孫たちのサポートに忙しくしていた頃でした。

中二階で折り返す階段。居間からの見上げ。
階段を介してお互いの気配が伝わるオープンなつくり

小さな病気やケガなどの身体に変化

年月が進むにつれ、父母の身の上にもちいさな病気や不意の怪我が度々起こり、足腰も齢相応に衰えてきました。
次女夫妻の方は子供たちが独立し始めたので、1階だけで生活が可能な45坪の家に父母が戻るよう、再度入れ替わり引越しを提案しました。古かったこの家も室内の段差を取り除いたり、断熱改修をして、以前父母が暮らした時より、格段に住みやすくしてありました。

80代の夫婦が選んだ住まいのカタチ

しかし父母は難色を示します。オープンで2階とつながったつくりや、木の内装材、窓が多く日当たりと風通しの良いこと、使いやすいキッチンなどがとても気にいっていて、できる限りこの家に住み続けたいと言います。アップダウンが多いのも苦でなく、足腰のためになっていいのだと。

そうこうするうち、昨年父が腰を圧迫骨折し、腸の不調も重なり病院通いと数週間の寝たきり生活を送りました。階段どころかトイレやお風呂への行き来もやっとの状態となったため、居間にベッドを移し、母や子らが世話をして乗り切りました。それがあり、いよいよ「できる限り」のリミットが来たので、45坪の家への転居を再度周囲は勧めました。しかし父母は首を縦に振らず引越しはしないと。最後までここで暮らし、本当に動けなくなったら施設へ行くとの決断でした。

体調が回復した父はさっさと2階の自分の部屋に寝室を戻し、趣味にいそしんでいます。母は好きな料理をして、訪ねてきた友達とおしゃべりする生活を楽しんでいます。「ここは誰にも気兼ねなく、気持ちよく楽に暮らせて、私たちに合っている」という母のセリフが、この住まい問題決着の核心だったと思います。シニアの住まいのリフォームの際には、教科書通りの対応でなく、高齢になってからの当事者の希望や思いに、もっと耳を傾けたいと思いました。
そうとなれば、ここで少しでも長く快適に暮らしてもらいたいもの。断熱改修・暖房変更・手摺設置などのリフォームを行い、やってよかったと喜ぶ80代夫婦でした。

趣味の写真整理やビデオ視聴など、父のエリア(2階)
小上がりに手すりをもうけた
使いやすいと母お気に入りのキッチン
冬場、無暖房でも18度を保つように、全ての窓にインナーサッシを設置した。
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