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木の家コラム

木の健康効果を活かす乾燥方法とは?

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あらわしの木の家が健康効果を高める

 

木の抗ウイルス・抗菌作用

新型コロナウイルス感染はまだまだおさまりそうにもありません。
100年前の第1次世界大戦の時に流行したスペイン風邪が収束するのには3年かかったので、それから考えるとまだ峠をこえていないような状況かもしれません。
新型コロナウイルス感染は、我々が携わる住まいづくりにも大きな変化をもたらそうとしていますが、そのうちの一つに「空気の質」への関心の高まりがあります。
そこで注目されているのが「木の抗ウイルス・抗菌作用」です。

既に2013年に発表された論文には、ペットボトル、ゴム製品、ヒノキ材の表面においてウイルスの感染力の持続時間に違いがあり、前2者で30分経っても感染力が維持されていたのに対し、木材は10分経過した時点で低下していることが報告されています。(辻本和子他「学童の生活環境を汚染したウイルスの感染性の時間変化の解析」)
これは木材の調湿作用によるものと言われ、木材がウイルスの水分を吸い取る乾燥速度が高いためと見られています。
新型コロナウイルスについても、昨年香港からの報告で同じような効果が指摘されていました。

調湿作用だけでなく木の香り成分の抗菌作用もよく知られています。
森林浴の気持ち良さはフィトンチッドによるものですが、その名の由来はラテン語の「フィトン:植物」「チッド:他の生物を殺す」から来ています。
木の香りは人にとっては気持ちがよいと感じさせるものですが、ウイルスや菌にとっては、生死を左右するものとも言えます。

 

ヒノキは覚醒効果、スギは鎮静(リラックス)効果

ところで、香り成分の人に与える効果も樹種によって違いがあることがわかっています。
ヒノキの香りは覚醒効果がある一方、スギの香りは沈静効果があります。人の身体機能からみれば、ヒノキの香りは人の活動が活発な時にはたらく交換神経に作用し、スギの香りは寝る時にはたらく副交感神経に作用します。
ですので、寝室に張るのであればスギがお薦めで、質のよい睡眠を促す効果があります。酒樽、御ひつ、お椀など食べ物には古来よりスギが使われていますが、スギのほどよい抗菌作用によるところと思います。

このような木材の健康効果などの実証事業を林野庁が予算をとって始めましたが、令和2年度の成果発表会が3月17日に木材会館で開催されていましたので、足を運びました。
全国の13事業の報告があり、会場には100人足らずの参加者でしたが、オンラインでの参加が500人ということで関心の高さを感じました。

 

木材の乾燥へのこだわり

このように、新型コロナ汚染をきっかけに木材の調湿作用や香りの効果が注目されていますが、木材の乾燥方法によってはこの効果が大きく減殺されることが分かっています。
NPO木の家だいすきの会は乾燥方法にこだわりをもって家づくりに取り組んできました。それは、過去に以下のような経験があったからでした。

木の家に取り組み始めた20年ほど前、高温乾燥した木材を使っていましたが、木のカサカサ感や内部割れ、木の香りが飛んでしまって木肌の色合いも白っぽいのが気がかりでした。
大工棟梁からは「高温乾燥した木材は、のみを入れると木が削れるのではなく、つぶれるように崩れる。」という意見もありました。

そこで、天然乾燥の木材に取り組み始めました。天然乾燥材は本来の肌の色が失われず、香りも良かったのですが、天然乾燥材を使った家づくりは2棟で終わりになりました。
というのは、天然乾燥材を使うためにはストックする資本力が不可欠で、なくなくあきらめるしかなかったためです。
その後、しばらく高温乾燥材を使用していましたが、提携する彩の森とき川という協同組合が35℃の低温乾燥庫を導入したことから、低温乾燥木材の開発に協同して取り組み始めました。
2016年度に東京都小平市にある職業能力開発大学校の定成政憲教授の協力を得て、構造材の低温乾燥スケジュールをつくり試験乾燥を何度か繰り返し、8週間~10週間の乾燥期間を確保すれば一部の大寸法材を除けば構造材の低温乾燥を行え、香りや色合いも天然乾燥材に遜色ないことが分かりました。

今では、建て主の方に低温乾燥材の開発の経緯や効果をお話しすると、乾燥期間の確保が可能な時間の余裕のある方の多くが低温乾燥材を使用して家づくりを進めたいということになります。

 

低温乾燥木材の効果を実証する

低温乾燥材の調湿効果や香りの効果は多くの木の家の建設に立ち会った実感として感じてきたことですが、これを科学的なデータとしても裏付けて確信をもって勧めたいという動機から、2017年に工学院大学建築学部中島裕輔研究室に依頼して、乾燥方法の違いにより調湿性能にどのような変化が生ずるか、実証試験をして頂きました(図1)。
埼玉県は県土面積の3分の1が森林地帯で、ときがわ町はその入り口に位置する森林の町です。このときがわ産のスギを高温、中温、低温、天然乾燥の4つの方法で乾燥させて吸放湿量がどう変化するかデータを検証しました。
検査結果は高温乾燥材や中温乾燥材と比較して天然乾燥材と低温乾燥材が優れた性能を示し、調湿建材・等級1(吸放湿量29g/㎥以上)に匹敵する吸放湿性能となりました。
また、2020年には九州大学農学部の清水邦義研究室に依頼して、乾燥方式の違いで香り成分にどのような変化が生ずるか、実証試験をして頂きました。
ときがわ町内で伐採した同じ立木から一次製材をして、低温、中温、高温の3つの乾燥法式で板材を乾燥し成分分析を行いました(図2)。この結果、香り成分は低温乾燥材で最も多く、高温乾燥材では4割以上の減少になるという結果を示しました。

図1 吸放湿試験結果(乾燥方法の違いによる吸放湿量比較)

 

図2 香り成分試験結果(乾燥方法の違いによる香り成分有量比較) 

 

木材の付加価値を高め森に還元を!

木材の規格はJASに規定されていますが、JAS制度には、「平準化規格」と「特色のある規格」の2種類があります。
平準化規格は必要最小限の基準を示す規格ですが、特色JASはこだわり規格とも呼ばれ、日本産のサービスや産品の付加価値化、ブランド化を国際的に推進する目的で定められたものです。
先にご紹介した九州大学の清水邦義准教授は、木の香り成分を特色JASとして制度化できないか取り組んでいらっしゃいます。
木の香りや調湿性能といったものの健康に与える良い効果が分かり、それが特色JASとして評価されれば、木材の付加価値が高まり森林への還元を図ることも可能になるのではないかと期待しています。

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