だいすきだから、
記憶を紡ぎ、未来へつなぐリノベーション
東京都練馬区
詳細調査を行い、劣化部分と性能向上リノベーションを実施
職場のある茨城県で母とマンション住まいをしていたOさん。高齢の母の余生は慣れ親しんだ家で暮らしてほしいと考え、東京都練馬区に建つ築60年の生家に戻ることを決意しました。
「愛着のある木の家を、母の終の棲家にしたいという思いがありました。ただ、古いうえに30年近く空き家状態だったので、そもそも改修できるのかというところから検討が必要でした」
そこで木の家だいすきの会の提案を受け、建物の詳細調査を実施。
地盤や構造、断熱性能、劣化状況を入念にチェックした結果、床下環境と軸組構造の問題や、雨漏りの痕跡を発見。結果として、耐震補強や基礎の改修、屋根の葺き替えを含めた大規模リノベーションをすることとなりました。
リノベーションは工事を始めるまで不確定な要素が多く、解体してみて不具合が見つかる、といったケースも少なくはありません。その場合、予算や日数が当初の想定を超えてしまうことも。そうしたリスクを回避するため、木の家だいすきの会では専門家による住宅性能調査を極力行い、現況を明確に把握することを心がけています。
女性視点で暮らしやすい生活動線に
リノベーションにあたり、Oさんはもともとの雰囲気やたたずまいを残しつつ、高齢の母と定年後の自身が安心して快適に暮らせる家を希望しました。
「その結果、梁や大きい柱はできるだけそのまま活かしながら、手を入れるべきところは入れて車いすを利用していた母が生活しやすい空間になりました。木の家だいすきの会や設計担当のアトリエ・ヌック建築事務所さんは、古いものを大事にするという考えがあったので、価値観も合って私の要望を上手にかたちにしてくれました」
たとえば玄関では印象的な格子窓を残し、無垢の木を使って一新。入口ドアも幅広く造り替えた。また、書斎だった部屋は出窓の趣ある雰囲気は活かしつつ、内窓を設けて断熱仕様に。ほかにも無垢の板と漆喰をふんだんに活用するなど、かつての住まいは見た目も性能も大幅に向上しました。
「母は、よく居間からのんびりと庭を眺めていました。当時の楽しい記憶を、快適な家で思い出していたのかもしれませんね」
設計は、アトリエ・ヌック建築事務所の勝見紀子さんと新井聡さんが担当。勝見さんの“女性目線”も暮らしやすさを高めてくれたそうです。
「勝見さんは家事の際の動線の取り方が素晴らしくて。キッチンと勝手口の距離感や、洗濯場とお手洗いまでの流れが絶妙で、とっても使いやすいんです」
設計者・工務店と関係を継続し、こまめに改修
竣工後、Oさんの暮らしに大きな変化が訪れました。
「家が完成してから7年が経ち、その間に母が亡くなりました。そのため、母の居室だった玄関脇の四畳半を応接室のようなしつらえに。また、娘も同居することになり、2階の一部にも手を加えました。その工事は変わらずアトリエ・ヌック建築事務所さんと当麻工務店さんにお願いしました」
Oさんは、当麻さんを「ホームドクター」と称します。木の家は、しっかりメンテンナンスし、丁寧に使うことで長く保つ建物です。だからこそ、Oさんのように、信頼できる設計者や工務店との関係性が継続していることは、家にとっても安心材料です。
「子供の頃から木に囲まれて育ったので、今の住まいも自分の家としてしっくりきています。涼しい場所が多いからか、猫も気持ちよさそうで(笑)。これからも大事に住んでいくつもりです」
かつての面影と思い出を留めつつ、性能を高めていつまでも暮らしやすく。リノベーションは、家のサステナビリティに貢献する手段なのかもしれません。
木の家だいすきの会からのコメント
築60年の住まいが、高齢のお母様にとってもOさんご自身にとっても、快適そして健康に暮らせる木の家に再生されました。生まれ育った木の家を大切に手を入れて使い続けたいという想いをつなぎ、現在は娘さんや大好きな猫ちゃん達との暮らしを楽しまれている姿が印象的でした。