だいすきだから、究める。

木の家コラム

どうする、ウッドショック対策?

令和3年4月ウッドショックは突然やってきました。新型コロナ汚染がきっかけで海外からの木材の輸入がまったくストップしたため、その代替に国産材を買いあさる動きが活発化して、国産材価格も高騰しました。国産の杉の柱(乾燥材)価格は、ウッドショック直前の令和3年3月69,800円/㎥が6ヶ月後の9月には139,000円と2.0倍まで高騰しました。
その後、外材の輸入も再開し落ち着きを見せてきましたが、令和5年6月現在、未だ97,000円/㎥と1.4倍の水準を維持しています。一方、この間の丸太の価格は14,200円/㎥だったものが8月に19,100円/㎥(1.35倍)に達し、現在は15,200円/㎥(1.1倍)とほぼコロナ前の水準にもどっています。
「立木の価格が安くて植林をする余力がない」と言われている中で、私は内心では森林所有者もこれで一息つくのではないかと思っていましたが、実態はそうではなかったようです。原料の丸太と製品の柱の価格の動きにどうしてこれほどの差が発生したのでしょうか。原因はあきらかで、ウッドショックによる価格の高騰の恩恵は製材~流通の過程で多くは吸収されてしまったためです。これは全国の平均的な動きです。木の家だいすきの会のフィールドである奥武蔵の森ではどうだったでしょうか。昨年、連携頂いている素材生産者や製材所の方に聞き取り調査した結果では、立木の価格も製材の価格もピーク時はいずれも2倍でほぼ同じでしたので、ウッドショックによる高値が森林にも波及していました。この地域では、木材の付加価値を高め、高く買っても良いという消費者の支持が得られれば、市場構造の中でそれを森林に還元することができることを示しています。木の家だいすきの会では、スギの香り成分が保全される乾燥方法によりスギの付加価値を高め、それを森林に還元できる取組を促進したいと考えています。

伐採見学会 事始め

木の家だいすきの会の活動を始めた当初、何から手をつければよいのかが課題でした。
そこで、まず手掛けなければならないことは、「近くの森の木で家をつくる」ことを消費者の方に身近に感じてもらうことだと見定めました。このためには、まずは森に足を運んでもらうことから始めよう、ということで、伐採見学会をどうしても開きたいと考えました。 しかし、「木を伐ることは森林破壊ではないの?」と受け取られる懸念があり、設立当初から始めたセミナーで、「日本では木の伐採は森林破壊になりますか、それともそうではないですか?」という質問をしてみることにしました。現在では質問する意味もほぼなくなりましたが、当時は「森林破壊になる」と回答した方の割合が3割割程度もあり、さらに、日本で「木を使うことが森林保全に役立つ」という理由を正確に回答できる人はごく少数でした。 こんな状況だからこそ、伐採見学会を実施すべきと確信し、翌年の2002年10月に埼玉県飯能市で記念すべき第1回の伐採見学会の開催に漕ぎつけました。翌年には、飯能市のOさんの森、ときがわ町のMさんの森というように、森林所有者にお願いして伐採見学会を開催しました。

なぜ「伐採からはじめる家づくり」なのか

新築、リノベーションに関わらず、私たちがお勧めしているのは、「伐採見学からはじめる家づくり」です。
伐採見学会では、先人たちが50年60年以上かけて大切に育ててきた木の命をいただき、大黒柱や梁、床板などに利用される木が伐採されるのを見学します。澄んだ空気の森の中で、何十年もかけて大きくなった木が倒れる時の体の芯まで響く音と振動は、何とも言えず厳かな気持ちにさせてくれます。
立木は伐採されて命を絶たれますが、製材され大工さんによって家の中で第2の命を吹き込まれ、住まい手を見守ります。そんな過程を見て感じていただく。―それは、単に「家を買う」では味わえないことです。

古民家再生にも通じる、バイオリンの話

 子供の頃に習っていて、長いこと中断していたバイオリンのレッスンを、数年前に再開しました。しかし子供時代の覚え方の早さとは比べ物にならず、壁にぶつかる日々です。  バイオリンはすべて木で作られています。 表面は比重が小さく音が伝わりやすい「スプルス」(ドイツトウヒ)、裏面は「メイプル」(カエデ)で、程よく硬く、木目が密できれいなものが使われています。 これらの木材の良し悪しや天然乾燥のさせ方が音の美しさを左右し、楽器の価値が変わります。名器「ストラディバリウス」の材料は、驚くほど均一で密な木目を持っていて、ヨーロッパがかなり寒冷だった時期(14Ⅽ~19Ⅽ半)の木材を使っているのではないか、と言われています。

地域の森の木を使って公共施設をつくろう

私の事務所があるのは、地元である埼玉県飯能市。
面積の約75%もの山林を持ち、江戸時代より「西川材」と呼ばれた木材の産地です。
私の家系は、山や林業に携わっている人はいませんが、せっかく地元が産地なのだから西川材の木の家を推奨しています。
建て主さんや建築地によっては、ときがわの木や、多摩の木を使うこともあります。 木の産地ですから、地元の公共建築物には「西川材」を利用するのが自然な流れですね・・・
コウ設計工房でも、時々小さな公共建物の設計を受け持つことがあります。以前、市の担当職員さんと、入札方式ではなく、プロポーザル方式で発注するのは難しいですか?・・とお話したことがありました。(簡単に説明すると、入札方式とは、設計金額を入札する中で金額により決まり、プロポーザル方式とは、企画提案を選ぶことで、設計者を決めます)
しかしながら、「設計者を決めるまでのプロセスや選定基準などが難しいなあ・・」ということで、今でも入札方式で決まるのが常です。 設計説明書では、「出来る限り西川材を活用した提案を行うこと」と書かれているのですが、我々のような地元の設計事務所が落札するとも限りません。地域材を生かした設計をしたくても、金額提示がうまくいかないと提案すらできないのです。公共施設の設計に手慣れた事務所は、役所が設計費としていくらくらいを想定しているかの見当を付け、最低金額を割らない、ちょうどいい塩梅で入札してきますので、コウ設計工房が受注できるのは、運しかありません。(経験値が低いのですね・・)公共工事の設計費は悪くないので、受注したい案件の場合など、比較的安い金額で入札したりしますが、最低金額より下回る金額だった場合に何度も失格になったことがあります。 数年前に受注した、駅前広場のトイレと山間部の小学校に隣接した学童保育施設では、構造材、内装材共に西川材を生かして実現できました。しかし、市外の設計事務所が設計を担当し、木に対して意識の低い工事会社が受注すると、西川材は少ししか使われないようです。
材木業者さんも嘆いていますが、何もできません。
木を生かす設計者、工事業者、役所の職員と協力してできる体制が出来ればこんなことにはならないのに、癒着だの談合だの騒ぐ人もいるから難しいんですね。

健康空間を生み出す木の特性

コンクリートの飼育箱で飼われたマウスは生長程度が貧弱でかつ短命であり、産まれた子供を噛み殺すといったショッキングな報告があります。
人の場合はそのような激しい症状は起こさないと思われますが、学校における荒んだ子どもたち・校内暴力の背景に、校舎の殺伐とした物理的環境を懸念する声も聞かれます。
そこで、学校における子どもや教師の疲労の様子を鉄筋コンクリート造校舎と木造校舎について比較すると、両者の間に違いのあることが分かります。 図 8 は授業中の子どもの疲労症状を見ています。鉄筋コンクリート造校舎の子ども達は木造校舎に比して眠気やだるさを覚え、注意集中の困難な傾向がより多く見られています。
また、鉄筋コンクリート造校舎では保健室逃避と見られる曖昧な理由での保健室利用が目立っています。

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