だいすきだから、究める。

木の家コラム

“グリーンウッドワーク” の魅力

伐採したばかりの立木は水分を多く含んでいます。杉は水を好む樹種なので、伐採したばかりの年輪に触れるとしっとりと手が濡れます。伐採直後から乾きはじめ、乾くことで収縮します。正確に言うと、木の含水率が大気中の含水率(関東地方では約15%)になるまで乾燥が進むと収縮は止まります。
家づくりでは木材を乾燥させて使うことが大切ですが、乾燥のさせ方で木材の性状が変わってきます。木本来の香りや色合いなどを保全するためには、時間をかけて天然乾燥することがベストですが、管理が難しくコストや時間もかかるため、人工乾燥が一般化しています。
木の家だいすきの会で数年前から実用化している“彩の香り杉”も天然乾燥に近い中低温の人工乾燥方式で樹液成分の漏出を抑え、杉本来の香りや色つやを保全した杉材で、これを使って家づくりをお薦めしています。

リノベーションの建築 ~建築の寿命~

山の上ホテルが再開を目指すというニュースをネットやTVに流れました。
かなりうれしい知らせです。
というのも1980年の大改修工事、設計チームの一員として現場で図面を描きつつ設計監理にあたっていました。
もともと山の上ホテルは竣工が1937年(昭和12年)佐藤新興生活館としてオープンしました。その後1954年(昭和29年)故吉田俊男氏が取得して改修工事を行いホテルとしてオープンしました。
さらにその後、時代の流れの中で老朽化した部分と新たな設備の大改修が行われ、1980年再開しました。なんとその時の改修工事費は数十億に上っています。 1980年の改修工事前、スーパーゼネコン何社かは建替えを提案しましたが故吉田氏は建替えに納得せずにいたところ、建物を残す改修案を提案した建築家が居ました。
その結果、山の上ホテルはオリジナルの姿を残すことが出来たのです。 小さな建物は別として、残される建物の多くは行政がかかわり歴史的な評価を受けた建物がほとんどです。なぜならコストがかかり費用対効果が見込めないからです。建築はある一定の機能を求めて造られます、そのためその機能が不十分になると壊され建替えられます、しかし山の上ホテル=佐藤新興生活館は機能を変えて残されました、さらにホテルの機能が不十分になりつつある時(~1980年)、よりよく残す道を再び選択しました。 世界には機能を変えて生き続けている建物が多々あります、パリのオルセー美術館やロンドンのテートモダン、京都の京セラ美術館など、小さな建物では町家を改修した商業施設などなど‥‥
「機能的な設計です」は設計者の殺し文句のようですが
建物の価値は果たして機能だけなのでしょうか?
機能だけの建物は消費されてしまうのではと。手元には1980年改修工事後の完了図面を開いています。図面を見ながら、考えさせてくれる山の上ホテルのニュースでした。
写真は1980年改修工事の終わったあとのものです。

ある住宅の変遷 — 末永く使うために

木造2階建ての住宅の38年間の変遷についてです。
38年前の4月、S氏は弟のW氏から提案されて、父親の土地に2世帯住宅を建てることにしました。その時、S氏夫妻は第一子が年末に生まれる予定で、W氏は独身のサラリーマンでした。
北側道路の敷地に設計された住宅は上と下がほとんど同じ間取りで、2階は外階段でのアプローチでした。平面の中央に収納が南北に配置され、東側が玄関から見通せるLDKで、西側が6畳の和室と縁側という構成です。収納を真ん中にして、周囲を一周出来るプランとしたのは、子供達がぐるぐる回って遊べることと来客の際、対応がし易いと考えたからです。

共存、融合する建築

前回のコラムでUA値の数値を上げるだけでは快適な建築空間が出来ません、数値は一つの判断基準ですが数値のみを追いかけるとむしろ快適な空間創りから離れていってしまいますよ、というお話をしました。
UA値の数値を誇っていた某ハウスメーカーの、このコマーシャルは最近見かけなくなりました。 今回のコラムは、木の家だいすきの会からちょっと離れてのお話。スペインアンダルシア地方にはイスラム建築とキリスト教建築が併存しています。というよりむしろ融合とまで言っても過言ではない建物もめずらしくあります。その最たるものがコルドバにある大モスク通称メスキータです。このモスクは785年に建設が始まりイスラム時代に3回の増築がなされ巨大になりました。現在は東西約135m南北約175mです。1236年コルドバはキリスト教徒によって奪還されましたがモスクをすべて取り壊すことはしませんでした。その代りにモスクの中心をキリスト教教会に造りなおしました。その為骨格は変わっていません。見事な2段アーチも美しく残っています、驚くことにモスクの必須アイティムのキブラやミフラーブも美しいまま残されています。さすがにミンバルは無くなっていました。モスクの象徴であるミナレットも残っています。果たしてこれはキリスト教教会?それともモスク?と思える空間です。 どうやら異なる宗教を敵視してしまうことや過激な破壊は近代から始まったようです。一般の人々は宗教が異なっていても普通に共存しお互いをリスペクしていたことが建築を見ているだけでもわかる空間でした。排除するのではなく共存、融合していく空間に魅力を感じました。日本の公共建築もやっと木の建築との共存、融合が始まってきました。

山を知らない設計者が山を滅ぼす?

SDGsの観点から「伐って、植えて、育てる」という森林の循環利用が大切であることが理解されるようになってきました。熱帯雨林の伐採が環境破壊として問題視されるなかで、20年前は「日本でも木を伐ることは森林破壊になるでしょうか?」という質問に「人工林が多い日本で今必要なことは、伐って植えて育てることです。」と正確に答えられる人は3割程度でした。現在では、この割合は相当高まっていると思います。 このように社会的認識がステップアップした現状のもとで、「専門家である設計者に求められることは何か?」と考えた時に頭に浮かんだ言葉が、「山を知らない設計者が山をほろぼす」という三井所清典氏(日本建築士会連合会元会長、芝浦工業大学名誉教授)の言葉です。日本は傾斜のきつい山地で林道の整備も進んでいませんので、運び出すための条件も考慮して使うことが必要となります。立木はまっすぐ見えても微妙に曲がっていますので長尺材の歩留まりは悪くなりがちです。丸太はよく使われる3mないし4mに伐採現場で切断され、土場に運ばれてきます。長尺や径の太い丸太は事前に情報を伝えておかないと入手が難しいし、価格も高くなります。したがって、建築コストを抑えようとすれば、地域で入手可能な木材情報を設計前に把握し、地域の大工さんが取り組みやすい在来軸組み工法で設計することが有力な選択肢になります。ところで、原木市場が担う“選木”機能は森林資源を余すところなく活用するカスケード利用の役割を担っています。丸太が全て建築用の製材として使えるわけではなく、杭などの土木用材料、木質材料の原料、紙の原料、燃やして熱源とするなどの需要があり、それを仲介する機能を担っています。森林資源のカスケード利用を促すため、製材や木質材料をどう選択して使うか、地域の事情を把握して設計することも必要です。

家づくり小話

設計監理で現場に行った時のこと。大工工事が終わりこれから左官工事(壁を塗る)が始まるという段階。現場に行ってみると 一箇所壁から「込み栓」(柱と梁を留める木棒)が出ているのです。
普通は切り落として、壁の中に隠れてしまうもの。現に他の箇所では全部切ってある。なぜか一箇所だけ残っている?。
あれ?切り忘れ?そして何でこのまま壁を塗ろうとしている? 現場監督に聞きました。
私 「○○さん ちょっといいですか。こっち ほら これ 何で?」
監督「ああ〜 切りますか?」
私 「えっと なんで?切り忘れ?」
監督「△△さん(棟梁のこと)たまにこういうことをするんですよ」
私 「えっと なんで」
監督「いや 気になるなら切りましょう」
私 「いや 気になるけど なんで?」
監督「こういう家だっていうこと ま 洒落でしょう」 みんな知っていて 残しているのですね。
棟梁がわざとやって
監督が そのままほおっておいて
左官屋が そのままで壁を塗ろうとしている。
それを設計者が無粋なことはしてはいけない。 木をしっかり組んだ家だよっていう表現もあるでしょう。
でもそれだけではないと感じました。
じつはいろいろ苦労があった現場だったのですが
この、ひとつだけ残された込み栓になぜか励まされたように感じました。 完成間際になって 住まい手もその込み栓に気付きました。
じ~っとしばらく見ていましたが その後、何も言いませんでした。
住まい手は あの込み栓に何を感じ取ったのでしょう? 今も あの込み栓事件は(事件?)私にとって想い出になっています。
面白い棟梁だったなあ。
こういうのって 人肌を感じるというか 気持ちがいいと感じます。
棟梁の家に対する熱意や思いがあり 周りの人(住まい手や設計者など)への気持ちがある。 家にそのような物語があることは そこに住む人たちにとって、どのような意味があるのでしょう?
時としてそれは青臭いし面倒くさい。
でも気持ちの豊かさ 情操を育んでいけるのは 
やはり 人と人との関係 人と自然との関係 人とモノとの関係だと感じました。
それ大切にしていきたい。 家づくりを通して 人が豊かになっていければと思いつつ・・・

中古住宅の調査診断を誰に頼むか?(ワンストップか、第三者性か)

最近、新築ではなく中古住宅を購入してリノベーションするという人が増えています。よほど状態の良い中古住宅であれば別ですが、購入するとなると、劣化状況や耐震性、断熱性などの性能も気になりますよね。国も、空き家対策や中古住宅の流通を活性化させるため様々な施策を講じていて、2016年には宅地建物取引業法の一部が改正され、専門家による既存住宅状況調査(インスペクションと言います)の活用を促すことが義務化されました。依頼者の意向に応じてインスペクション業者のあっせんの可否を示すという少々ややこしい法律で、インスペクションの実施自体は義務化されませんでしたが、通常の不動産取引の場にインスペクションという言葉が登場することになりました。これまでは、築年数や構造、面積や間取りといった基本的な情報のみで中古住宅を売買していましたが、これからは、中古住宅の劣化状況等も専門家が調査してから売買するという、購入者が安心して良質な中古住宅を選ぶことが出来る仕組みづくりが進められています。

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