だいすきだから、究める。

木の家コラム

「木の家」の実力

今年は本当に「暑い」夏でした。40℃に迫る気温も度々で、東~北日本も、もはや「亜熱帯」気候では?という声も聞こえてきます。暑い夏といえば、随分前になりますがタイのバンコクに旅行し、真夏の昼下がり、タイのシルク王・ジムトンプソンの旧住居だった「ジムトンプソンの家・博物館」を訪れました。タイの伝統的建築様式を取り入れたものでしたが、仄暗い室内のひんやりしたチーク材の床の足触り、深い軒から、緑濃い花の美しい庭に複抜ける風の心地良さが、今でも思い出されます。バンコクでもホテルやオフィスなどは、冷房を思い切り効かせて、外とは「別世界」というのが当時の最先端だったようですが、タイの自然と融和した「ジムトンプソンの家」は、都会のオアシス、といった雰囲気でした。風土の違いはありますが、亜熱帯になりつつあるらしい関東周辺でも、住まいには同じような心地良さが求められているのではないでしょうか。

古民家再生にも通じる、バイオリンの話

 子供の頃に習っていて、長いこと中断していたバイオリンのレッスンを、数年前に再開しました。しかし子供時代の覚え方の早さとは比べ物にならず、壁にぶつかる日々です。  バイオリンはすべて木で作られています。 表面は比重が小さく音が伝わりやすい「スプルス」(ドイツトウヒ)、裏面は「メイプル」(カエデ)で、程よく硬く、木目が密できれいなものが使われています。 これらの木材の良し悪しや天然乾燥のさせ方が音の美しさを左右し、楽器の価値が変わります。名器「ストラディバリウス」の材料は、驚くほど均一で密な木目を持っていて、ヨーロッパがかなり寒冷だった時期(14Ⅽ~19Ⅽ半)の木材を使っているのではないか、と言われています。

シニア世代の住まいづくり

シニア世代の住まいづくりには、仕事や子育てに追われる若い世代とはまた違った課題があります。子供の独立や、親の(時には配偶者の)見送りによる家族の減少、仕事からのリタイアによる生活パターンの変化、自分自身の体力の低下、いずれ訪れる要介護生活への準備、などで、それも人により事情は様々です。
そんな中でも、変化を前向きに受け入れて、新築、リフォーム、どちらの場合でも、今までの生活を見つめ直し、少しゆっくりとした毎日を楽しめる住まいを作っていきたいものです。

しあわせな家

昨年リフォーム工事を行った「目黒の家」は、鉄筋コンクリート3階建ての住宅です。先日、点検があり訪問したところ、こんなものを見つけました。
施主のご主人が木の切り文字を購入し、戸棚の扉に貼ったとのこと。これを見た時、この建物は本当に「しあわせな家」だな、と思いました。この家が竣工したのは1989年です。1階に両親、2,3階に息子(現在の施主)夫妻と娘2人、の4人家族が住む二世帯住宅でした。
数年前に両親を見送った後、今度は1階に施主夫妻が移り、2,3階に次女家族が住むために、今回のリフォーム工事となりました。
28年間大切に住んだ家で、2017年 新たな形の生活をスタートさせる、という気持ちがこめられています。

自然と共に・・豊かな暮らし3題

 「人生フルーツ」という映画を今年の春、観ました。愛知県春日井市、高蔵寺ニュータウンの一隅に、雑木林に囲まれた平屋の、(故)建築家・津端修一さんの住まいがあります。
住宅公団で数々のニュータウン計画を手掛けてきた津端さんが、この地に土地を購入し家を建てたのは約50年前。それからコツコツと雑木林を育て、畑を作り、四季折々の野菜や果実を育て、夫人の手で料理される畑の作物の名札は、津端さんの可愛い絵入りのお手製。
そんな日々の中でも90才の津端さんは、相談された新しいプロジェクトの為の見事なスケッチを描きます。そんな二人の暮らしぶりを紹介した映画です。「家は暮らしの宝石箱でなくてはならない」という巨匠ル・コルビジェの言葉が紹介されますが、まさにその通りの住まいと暮らしです。

設計者の目
階段はドラマチックな空間

 住宅の中で階段は、上下階の移動という目的で毎日使うところですが、「人の足」で重力に逆らって「垂直に」移動するために視点が変わり、身体の動きにリズムが生まれる、ということによって、明らかに気持ちのスイッチが入れ替わる場所でもあります。
下から見上げたり、上から見下ろしたり、で気分が変わりますし、屋根裏への階段などはワクワクしたり、階段は色々と物語の生まれそうな空間です。